【原田眞人監督に聞く】安藤サクラと山田涼介が姉弟役で初共演!映画『BAD LANDS バッド・ランズ』公開直前インタビュー
9/29(金)に全国ロードショーとなる、映画『BAD LANDS バッド・ランズ』。
直木賞作家・黒川博行氏による小説『勁草』を映画化した本作では、振り込め詐欺に加担する主人公を中心に、裏社会の内情がリアルに描かれています。
今回はなんと、これまでにも数々の話題作を手掛けてきた原田眞人監督が来仙されるとの情報を聞きつけ、直接インタビューを敢行!
制作秘話や見どころについてたっぷりとお話を伺ってきました。
※ネタバレは含みませんのでご安心ください!
生きにくい世界を生き抜く。
姉×弟のバディムービー『BAD LANDS バッド・ランズ』
本作で描かれるのは、特殊詐欺を生業とする主人公・橋岡煉梨〈ネリ〉(安藤サクラ)と、血の繋がらない弟・矢代穣〈ジョー〉(山田涼介)。
刑務所から出所したばかりのジョーが仕事を求めてネリを訪ねてきたことから、次第に共犯関係となっていく二人。
そんなある夜、思いがけず”億を超える大金”を手にしてしまいます。
金を引き出す・・・ただそれだけだったはずの二人に次々と迫る、様々な巨悪。
果たして、ネリとジョーはこの〈危険な地〉から逃れられるのでしょうか。
何が嘘で、真実か。
誰が敵で、味方か。
事態は、予想もつかない領域へと加速していく――。
姉弟が向かう先は、”天国”か”地獄”か?
予測不能のクライム・サスペンス・エンタテインメント!
原作出版から6年、待望の映画化。
女性に変更した主人公、そして描かれる葛藤と家族愛
2015年の出版当時、題材に興味を持って原作小説を読まれたという原田監督。
まずは映画化までの道のりを聞いてみましょう。
―原作との出会いから、どのような経緯で映画化に至ったのでしょうか?
原田監督:特殊詐欺の裏側を描いているのが面白くて、読んですぐに映画化権を確認しました。でも、すでに仮契約で押さえられていて。2年経ってからまた確認したんですけど、契約が延長されていました。もうダメかなと思いつつも、そのときには主人公・橋岡を女性に変えて脚本を書きたいなと思っていたので、映画化権が無いまま書き始めました。おそらく権利は手放されるだろうという憶測のもとに脚本を書いて、原作発売から6年後、ようやく映画化権が手に入りました。自分で脚本を書く中でどんどんイメージも膨らんでいたので、待った甲斐があったなという感じです。
構想から実に8年の時を経て、監督の熱い想いがついに実現し公開となる本作。
原作で男性だったネリが映画では女性に変更され、さらには相棒のジョーや名簿屋を名乗る男・高城との関係性などにも独自の設定が加えられています。
―原作から人物設定を変更されている点には、どのような狙いがありましたか?
原田監督:小説を映画化するときは、どこをどう映画用に変えていくかっていうことを考えるんです。今回のような題材の場合は、追いかけていく刑事を主役にするか、逃げる犯罪者を主役にするか、っていう2つの方向性があるんですけど、小説ではどちらかというと刑事たちのほうにウェイトを置いているような感じで。でも映画では、犯罪者組織を内側から描いていったほうが面白いと思ったんですよね。ネリとジョーの関係が金儲けのビジネス本位だけになって、別れ方にも感情の起伏が無いっていうんじゃつまらないし。その落胆を避けるためにも、ネリを女性にしてジョーとのつながりもより緊密にしたほうが良いなと。
イングマール・ベルイマンっていうスウェーデンの巨匠がいて、彼の映画の中に『サラバンド』(※1)とか『鏡の中にある如く』(※2)っていうのがあるんだけど。ベルイマンがこういう犯罪映画を撮るとしたら、やっぱり主人公を女性にして近親関係的な要素を入れるだろうと。それで、その要素をどんどん強めていったんですよね。
※1『サラバンド』(2003年):離婚して30年ぶりに再会した元夫婦とその子どもたちが織りなす愛憎劇、そしてその顛末を繊細に映し出す。極限の愛と憎悪の物語。
※2『鏡の中にある如く』(1961年):作家の父、その娘と息子、医者である娘婿の4人が孤島の別荘で短い夏を過ごす。それぞれが問題を抱える家族の葛藤を描いた物語。
―確かに、裏社会を描いていながら、誰もが共感できる姉弟や家族との関係というテーマもあるのが印象的でした。
原田監督:やっぱり映画っていうのは、主人公の葛藤の度数が大きければ大きいほど良い映画になるので。そういう意味で橋岡をネリという役名にして、そこにドストエフスキーの『虐げられた人びと』(※3)のイメージを持ってきました。ネリっていうのは不幸の連鎖を背負ったキャラクターの名前なんですけど、最底辺に放り込まれたネリがどこまで浮き上がっていくかっていう、たくましい戦いの物語であるわけで。そういう意味では原作以上に、橋岡にハンデを背負わせています。プラスもマイナスも両方の面があるっていうところがドラマの面白さになるので、その辺も映画のポイントにはしたんですよね。
※3『虐げられた人びと』(1861年):フョードル・ドストエフスキーによる長編小説。1860年代初頭のロシアを舞台に、農奴解放、ブルジョア社会へ移り変わる混乱の時代に生きた人々を描く。この物語には、身寄りをなくした貧しい少女・ネリーが登場する。
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初共演ながら息ぴったり!
安藤サクラ&山田涼介が起こす化学反応
本作で主演を務めるのは、数々の映画やドラマで高い演技力が評価される安藤サクラさん。
原田監督作品に参加するのはこれが初めてだといいますが、裏社会で強く美しく生きるネリを魅力的に演じられています。
そして、『燃えよ剣』(2021年)に続いて原田監督作品には2回目の参加となった山田涼介さん。
犯罪歴があり自称”サイコパス”のジョーですが、姉を慕う弟としてのキュートさを見事に表現。そのギャップにも注目です。
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―安藤さん、山田さんを起用された理由と、お二人の印象をお聞かせください。
原田監督:涼介は『燃えよ剣』での沖田総司役が素晴らしかった。そのときにはもう『BAD LANDS』の脚本も書いていたんですけど、矢代っていうのは、沖田総司が現代に蘇ったらたぶんこのタイプだろうなと。それで、もうそこからは涼介のイメージで書いていました。彼にも話をしたし。「こういうのがあるよ」って。だから、涼介が一番最初に決まったんですよ。
原田監督:涼介は関西弁ネイティブじゃない。そうするとやはりネリのほうは、関西弁ネイティブの女優さんを選ばなきゃいけないなと。それで色々探してたんですけど、プロデューサーのほうから「安藤さんはいかがですか」と。それを聞いて本人と会ってみたんです。
彼女の今までの映画は大体の作品は観ていて、上手い女優さんだなとは思っていたけど、関西人ではないし、イメージとは違うと思っていました。でも会って話してみたら、本当に魅力的な女性で。もうこれだったら絶対的にネリは大丈夫だなと。涼介との組み合わせに関しても、「安藤サクラに決まったよ」って言ったら本当に喜んで。彼女と共演する楽しさみたいなものも、毎日の撮影で出てましたね。
―SNSのプロモーション動画などで拝見するお二人の空気感もすてきですよね。
原田監督:現場でもあんな感じでずっといましたよ。そこは映画業界の言葉で言うと「ケミストリーが良い」ってやつですね。本当に二人の関係が良かったから、セリフとしてのアドリブじゃなくても、雰囲気としてのアドリブ的なものはしょっちゅう出してたし。二人とも関西人じゃなかったけど、それぞれに別々の方言指導を付けて、ほぼ完璧に大阪弁をこなしてくれたし。役柄的にネリもジョーも東京での生活が長いから、アドリブとして標準語が出ちゃってもおかしくはないんだよ、っていうのは言ってました。でも彼らは最後まで関西弁でやり取りしてましたね。
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リアルさを追求した会話劇と群衆演出
大阪を舞台とした本作におけるこだわりとは
原田監督と言えば、印象的なのが生きたセリフ回しやエネルギッシュな空間の演出。
大阪が舞台の本作、撮影現場はどんな様子だったのでしょうか。
―本作は関西弁がメインですが、セリフに関してこだわった点などはありましたか?
原田監督:原作では関西弁での丁々発止のやり取りが面白かったし、現実に大阪なんかに行って電車に乗ってるときに聞こえてくる会話も全部、吉本の役者じゃん(笑)ってくらい、みんなシャキシャキしゃべるし。だから、特にセリフを速くしようとしなくても、関西人でまわりを固めていけば、あの雰囲気は出るなと。まあナチュラルな雰囲気ですよね。
標準語の芝居の場合は、いつもちょっと速めにすることを意識してますね。ゆっくりしゃべるのにみんな慣れちゃってるけど、特に時代劇の場合は、いやそうじゃないだろと。当時の人だって早口の人はいたし。だから速く言わせることをせかしたりはするんだけど、今回はそういうことは全然無くて。みんな自然な自分たちのスピードの中で、あのペースになったっていう感じでしたね。
―キャスティングについては、どうでしたか?
原田監督:大阪では普通のおじさん、おばさんがもうポンポンしゃべってるし、その雰囲気を出したいっていうのは最初からこの映画のコンセプトとしてありましたね。関西演劇陣と組むっていうのが最初の狙いでもあったので、生瀬(勝久)さんも宇崎(竜童)さんも関西出身だし、天童(よしみ)さんもそうだし。
その中で、みんなが見たことのないような意外性のある、「誰この人?」っていうような存在も入れたかったんです。そこにサリng ROCKがうまくはまってくれました。今回は大阪でもオーディションをやったんですけど、サリngROCKと山田蟲男に関してはその前に劇団「突劇金魚」の芝居のことを知って。それでネットで色々調べて、彼女のインタビュー記事を見たときにすごく良いなと。素の状態で話しているところで、いつも役者の技量は判断するんだけど。役を演じてるよりそっちのほうがナチュラルな会話だから。何かの取材に答えてる様子とか。ちょうどそういう記事があって、「彼女は絶対押さえよう」と。それはかなり強く感じましたね。
―現場で印象的だったことや、特に苦労したシーンはありましたか?
原田監督:苦労したのは、冒頭のシーンの中之島のみおつくしプロムナードで撮影した受け子と刑事の駆け引き。あれはとにかく、通行人をブロックしない、っていうのが条件だったので。その中であれだけの細かいシーンを撮るためには、こっちも戦略を練らなきゃいけないし。だから安藤サクラとか教授役とか刑事役とか、役者たちを中心として、そのまわりに僕のワークショップ「原田組」に参加してる役者たちをエキストラとして配置して。
エキストラの中でコアになる人たちが全部で50人くらいいるんだけど、その50人だけで最初は東京の大泉の撮影所でリハーサルをしたんですよね、一日かけて。ネリがこう動いたときにはどこに誰がいるっていうのを全部頭に入れさせて。それを現場に持って行ったときに、現場に来てるエキストラたちには、50人のうちの誰にくっついてもらうっていう役割を決めておいて。それで動かしていくから、全体のオーケストレーションっていうのはできてるわけですよ。だから、そこに一般の通行人が入り込んでも、まあ基本形はこちらが作っているから。この通行人が、このショットではいるけど次のショットではいない、ってなってもあんまり気付かないだろうと。そういう方式でやっていました。でも、それを一日で全部撮るっていうのは大変でしたね。
―一つのシーンでも、それだけ大勢の人や時間が使われているんですね。
原田監督:そうですね。原作でも一番最初に、宗右衛門町なんかで受け子と警察のやり取りがあるんだけど、そこでのロケはどう考えたって無理でした。撮影許可も出ないし、実際に役者を入れたとしても大混乱するのは分かっていたので。
だからそれに変わるような「これこそ大阪」っていう場所として、中之島を選びました。あれはもう、ここでやるしかしょうがない、って感じでしたね。スタッフ・キャストみんなが頑張ってくれて、そこにエネルギーを注ぎ込んだから、撮れたシーンでした。本当はもう少し速く撮っていれば、時間的に次のシーンまで行けたんだけどね。中之島が長くなっちゃったがために、その日の午後から夕方にかけて予定していた別のシーンが大阪では撮れなくなっちゃったんですよ。それはしょうがないから東京に帰ってきてから撮ったんですけど。
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“持たざる者”が真っすぐに生き抜く。
その姿から感じてもらえるものがあれば
撮影現場での苦労話も飛び出してきたところでしたが、ここでお時間が来てしまいました(泣)。
涙をこらえつつ、最後の質問です。
―最後に、本作を通して伝えたいメッセージとは何でしょうか。
原田監督:いろんな意味で生きにくい時代になっているので、その生きにくいを生き抜くっていうことですね。いちばん最底辺のところでうごめく人間の立場から見て。そこから得られる勇気みたいなものがあれば良いなと。
映画の面白さっていうのは、”持たざる者”がどれだけ自己の尊厳をまっとうして、真っすぐに生き抜くか、というところにあります。ネリは悪に染まっているんだけど、その中で一生懸命に這い上がっていく。その這い上がるっていう行為自体が正しいということ。その部分を、映画の面白さをぎゅうぎゅう詰めにして、役者の面白さ、ロケーションの面白さ、プロット運びのハラハラドキドキ具合とかと一緒に観て感じてもらえたら、成功ですよね。
原田監督、ありがとうございました!
制作に至った経緯から撮影中の秘話まで、貴重なお話をたくさんお聞きすることができました。
誰もが共感できる普遍の愛、そして映画の面白さにあふれた本作の魅力を、皆さんにも感じていただけたのではないでしょうか?
映画『BAD LANDS バッド・ランズ』は
9/29(金)より全国ロードショー。
ぜひ劇場でご覧ください!
『BAD LANDS バッド・ランズ』
9月29日(金)全国ロードショー
監督・脚本・プロデュース:原田眞人
出演:安藤サクラ 山田涼介
生瀬勝久 吉原光夫 大場泰正 淵上泰史
縄田カノン 前田航基
鴨鈴女 山村憲之介 田原靖子 山田蟲男
伊藤公一 福重友 齋賀正和 杉林健生 永島知洋
サリngROCK 天童よしみ / 江口のりこ / 宇崎竜童
原作:黒川博行『勁草』(徳間文庫刊)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2023「BAD LANDS」製作委員会
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